サッチ分解剤とは何か そのメカニズムと使い方について
サッチをじわじわ分解し続けてくれるサッチ分解剤
芝生の手入れで最も労力が必要であるといっても過言ではないサッチング(サッチ取り)。熊手などでどんなに掻いても際限なく出てきますし、芝生を育てていると冬枯れした葉や芝刈りでこぼれた刈り草、代謝で古くなった葉や茎・根など、サッチの元が次から次へと発生し、やがてサッチとなります。そんな増え続けるサッチをゆっくりと分解し続けてくれる便利な資材が「サッチ分解剤」です。
サッチ分解は微生物と酵素がキモ
サッチ分解剤には微生物の働きを利用するのですが、微生物が直接サッチを食べるのではなく、微生物が放出する酵素によってサッチが分解されます。酵素には合成と分解の二種類の働きがあり、植物が成育する際には合成酵素として成長を助けますが、死んだ植物に対しては分解酵素として働きます。サッチには分解酵素として作用しますから、サッチ分解が促進されるというわけです。サッチ分解剤の中には酵素を直接散布するタイプもありますが、こちらはやや扱いが難しい面があるためプロフェッショナル向けになります。微生物の場合はゆっくりと酵素を放出しますので、濃度の問題が生じることも無く手軽に扱えます。
サッチ分解剤の微生物って大丈夫なの?
微生物と聞くと人やペットには問題ないのか心配になる方もおられるかもしれません。でもご心配なく。サッチ分解剤に含まれる微生物は元々自然界に存在していたものを培養していますから、人やペットに有害なものではありません。
サッチ分解剤に使われる微生物としては最もポピュラーな微生物は、バチルス菌でしょう。別名ナットウ菌とも言われ、納豆が発酵するときに活動する微生物の仲間です。サッチ分解剤の大半がバチルス菌属の微生物を採用しています。
変り種としては、管理人が使用しているサッチ分解剤に含まれる好熱菌(バクテリアル・ホウジョウ)があります。こちらは温泉地から採取された微生物で、好熱という名の通りかなりの高温に耐える微生物です。一般的に真夏は気温が高くなりすぎて微生物活動がやや衰えることがあるようですが、好熱菌は真夏の高温も全く問題なく活動します。管理人が万緑-NHTを愛用しているのは、バチルス菌と好熱菌が含まれているため、シーズンを通して安定したサッチ分解が期待できるからです。好熱菌にはサッチ分解以外にも、病原菌となる微生物を無害化する作用(訓養・くんよう)もあるため、病原菌の繁殖を抑える効果も期待できます。
サッチ分解剤はいつまけばいいのか
サッチ分解剤は微生物の力を利用しますから、微生物にとって適した条件であることが望ましく、適度な気温と適度な水分が必要です。サッチ分解菌が活動を始めるのは5~10℃ぐらいからと言われており、最も最適なのは20~30℃ぐらいの温度帯でしょう(好熱菌はもっと高温でも活動します)。ですので、ある程度気温が上がる春から散布が有効であると言えます。
また、微生物の活動には水分も欠かせません。好天続きで乾燥気味の場合は散水することで微生物に水分を与えましょう。その他の詳しい使い方はサッチ分解剤の説明書を参照してください。
管理人宅の芝生の様子を見た感じでは、冬期も少しはサッチ分解が進んでいるようです。おそらく、冬枯れした芝に保温される形で日中は太陽光で温度が上がって活動しているのではないかと推測しています。そういう意味では、冬枯れした芝を長めに残しておくことも冬のサッチ分解には有効なのではないかと推察されます。
※低温でも活動する微生物を使用した冬用サッチ分解剤もありますが、一般にはほとんど流通していません。
サッチの分解はとても遅い
芝生の葉には、リグニンやセルロースといった難分解性の繊維質が多量に含まれているため、他の植物に比べるととても分解が遅いのが特徴です。ですので、サッチ分解剤を入れたら数日でサッチが消えて無くなるようなことはありません。シーズンを通じてゆっくりサッチを分解し続けることで、少しでもサッチの堆積を抑制するというスタンスで使った方がいいでしょう。
サッチ分解剤を使用する前の芝生の地際の様子。
サッチ分解が始まると地際の部分が黒ずんできます。見る見るうちにサッチが無くなることはありませんが、微生物の放出する酵素によってゆっくりと分解が進行します。
サッチ分解剤の効果を高めるには?
せっかくサッチ分解剤を投入するのなら少しでも効果が高くなるようにしておきたいもの。サッチの分解は微生物が放出する酵素が肝心ですから、微生物活動が活発になるほどサッチ分解の効果も高くなることが期待できます。
微生物が活発になるには、適度な温度や水分が前提となることはすでに解説しましたが、それ以外にも微生物の栄養分や通気性(酸素)も重要です。
微生物のエサとして有効なのは窒素や糖分です。窒素に関しては芝生の肥料をしっかり与えていれば大丈夫でしょう。窒素を足してやりたい場合は、硫安や尿素などの窒素の単肥(一種類の栄養素を入れるための肥料)を与えてみてください。
また、糖を与えることでも活発に活動するようになります。管理人が愛用している糖が入った資材には、万緑-NHTや超ハード葉素があります。万緑-NHTにはトレハロースや糖とサッチ分解菌が一緒に入っていますから、合理的なサッチ分解剤と言えます。超ハード葉素にもトレハロースが入っていますので、サッチ分解菌の追加や微生物活動を促進するための糖分を与える意味ではお勧めの資材です(光合成の促進効果もあります)。
農薬(特に殺菌剤)との併用には要注意
サッチ分解剤は微生物資材です。最も気をつけなければならないのは、殺菌剤との併用です。殺菌剤は微生物を殺しますから、サッチ分解剤と同時散布したり直後に散布しますとサッチ分解菌が死んでしまいます。ですので、殺菌剤と併用する場合は、殺菌剤を散布した後7~10日ほど空けてサッチ分解剤を散布してください。 殺虫剤や除草剤との同時散布も避けた方が良いですが、殺菌剤のように直接的に微生物を殺す作用はありませんから、そこまで心配しなくても大丈夫でしょう。
芝焼きと微生物の関係
芝焼きはサッチの元を減らす作業であって、サッチ分解とは関係ないのでは? はい、直接は関係ありません。が、芝焼きをすると燃えカスである炭が発生します。炭を土にまくと微生物のすみかになることが知られていますから、芝焼きをしておくとサッチ分解剤の微生物にとってもすみやすい環境になるのです。芝焼きでサッチの元を減らし、なおかつそれによってサッチ分解菌のすみかができるのですから、一石二鳥と言えます。
関連ページ:芝焼き
冬でもゆっくりとサッチ分解が進む
気温が低くなると微生物活動が衰え、酵素の放出も少なくなってサッチ分解の進行は超スローペースになります。ただ、完全にサッチ分解がストップするわけではありません。
サッチ分解に作用する微生物はおよそ5℃ぐらいから活動するものもいますから、冬でも暖かい日にはわずかに活動することがあります。微生物は環境が整うと活動を始め、適正環境でなくなると休眠するという性質があります。
冬場は気温が低くなることが特に微生物の活動を妨げますので、休眠前に長めに伸ばして保温性を高めておくことで、少しでも地温を保護し微生物活動を助けることができます。管理人宅では、冬枯れする前の刈り高は25ミリ程度にしています。
写真は、春に低刈りをした際、冬にサッチ分解していたと思われる黒ずみです。