芝生を食べる害虫や食害の症状、殺虫、予防について
芝生を食い荒らす害虫たち
春や秋の心地よい季節になると、昆虫たちの活動も活発になります。芝生の害虫も成長するために芝生を食い荒らし、大量に発生すると広範囲に枯れることもあります。芝生の害虫対策は、「害虫が寄り付きにくい環境」を作ることがポイントになります。
芝生の代表的な害虫には、次のようなものがいます。芝生のシーズン中は常に何かいるという前提で対応してください。
◆コガネムシの幼虫
芝生の根の先端あたりに生息し、根を食い荒らします。被害がひどくなるとシバが簡単に抜けたりはがれたりします。コガネムシの種類は豊富ですので、微妙に容姿の異なる幼虫が存在することもあります。
この後成虫となって地表に出て飛び立ちます。
コガネムシの成虫が芝生に潜っていく様子。この後卵を産み付けられ、地中で孵化した幼虫が芝生の根を食い荒らします。
◆シバツトガの幼虫
葉や茎を食害するのでまだらに枯れる、密度が低下するなどの症状が出ます。多発すると広範囲に枯れる。
シバツトガの幼齢中は緑色をしています。人間も未熟者は「青い」と表現されますが、害虫の世界は本当に青いようです。成長するにつれて上の写真のように灰色っぽい色に変化していきます。
◆スジキリヨトウの幼虫
ゴルフ場のラフなどのように比較的刈り高の高い所でよく見られます。葉先を好んで食べるため先端部分が白く枯れる。芝刈りしたわけでもないのに葉先が白く枯れている場合は、ヨトウの食害が疑われます。
スジキリヨトウの幼齢虫は青虫のような外観をしています。
ヨトウのものと思われる卵塊。早めに除去しておくと発生を防げます。
◆タマナヤガ
タマナヤガの幼虫も芝生を食い荒らします。
タマナヤガの成虫。
◆ナメクジ
芝生に直接害を与えることはありませんが、芝生を這いまわるとキラキラ光る筋が付いたり、存在自体が気持ち悪いという不快害虫となります。ミミズと同じく椿油粕の定期散布で駆除します。
◆蟻
蟻も芝生に直接害を与えることはありませんが、巣を掘った土を盛り上げてしまうため不快害虫になります。キトサン溶液など酢酸を含む資材を定期散布すると、蟻が住み着きにくくなります(酢酸の効き目がほとんど無い種類もいます)。
これらの他にも、シバオサゾウムシの幼虫など様々な害虫が存在します。早めに見つけて被害が大きくならないうちに駆除、もしくは害虫が発生しにくい環境作りが大切です。
食害の症状や害虫発生のサインで早期発見しよう
害虫が発生した時は、上記のような幼虫が地表に出ているのを見つける以外にも様々な確認方法があります。害虫の発生に早く気付くほど被害を小さく抑えられます。
◆食害でまだらに枯れる
水不足や肥料不足でもないのになんとなく枯れ始めてまだら模様になると、害虫の食害の可能性があります。
◆害虫が空けた穴
写真はコガネムシが空けたと思われる穴。幼虫の仕業かそれとも成虫の仕業かは分かりませんが、卵を産み付られたか、幼虫が存在している可能性は高いでしょう。
◆食害の痕跡
芝生を観察していると、ちょっとした芝生の変化に気付くことがあります。写真は食害による変色が発生した時のものです。
食害と思われる部分を軽く引っ張ったり引っ掻いたりすると、簡単に取れてしまいます。
食害付近をほじくり返すと害虫が出てくることがあります。
◆芝生をはがしてみる
ターフカッターで20~30センチ四方ぐらいに切れ目を入れてはがしてみると、根の先端ぐらいの深さにコガネムシの幼虫などが確認できることがあります。
コガネムシの幼虫は芝生の根の先端部分に潜んでいますので、ちょうど芝生がはがれる深さのあたりに存在していることが多いです。
◆芝生の害虫をエサとする鳥が来る
芝生の害虫を食べるために鳥が舞い降りてくることがあり、害虫が発生していることが予測されます。
鳥が害虫をついばんだと思われる穴。害虫が空けた穴は掘り返した土がありますが、鳥がついばんだ穴にはそれがありません。穴のふちに白いものが見えますが、おそらくシバツトガのツト(薄い繭のような住みか)だと思われます。
農薬による害虫対策
すでに害虫がいる場合はスミチオンですぐに駆除
害虫と思われる症状を発見した場合は、殺虫剤を散布しておくのが一番確実です。すでに存在している害虫にはスミチオンがお勧めです。どこのホームセンターでも簡単に入手できます。スミチオンは接触毒の殺虫剤ですから薬剤が害虫に触れると死にます。対象となる害虫によって希釈液の散布量が異なるため、説明書をよく読んでから散布量をきめましょう。これは害虫が存在する深さが違うことが影響しています。比較的深い場所にいるコガネムシの幼虫を狙っておけば、その他の浅いところにいる害虫が存在していたとしても一緒に駆除できます。
予防的散布なら浸透性のある食毒タイプの殺虫剤
害虫が発生する前にあらかじめ予防しておきたい場合は、食毒性の殺虫剤を散布しておきましょう。オルトランなどの殺虫剤がそれに該当しますが、食毒性の殺虫剤は芝生に薬が浸透することによってそれを食べた害虫が死にます。薬が触れるだけでは死なない殺虫剤もありますので、芝生に浸透した後に効くという点に注意してください。スミチオンのように散布したらすぐ死ぬというものではありません。食毒性の殺虫剤を浸透させておけば、害虫の幼虫が卵から孵化したとしても芝生を食べると死にますから、食害が拡大することはありません。
無農薬による対処や予防法
健康な芝生は害虫被害に遭いにくい
芝生が害虫の被害に遭いにくくするには、害虫にとって「おいしくない芝生」にすること、害虫が発生しにくい状況を作ることがポイントになります。植物はたんぱく質を合成して生きていますが、その過程で発生する遊離アミノ酸や糖などの昆虫のエサとなる成分が蓄積されると食害に遭いやすくなります。土壌が悪かったり、肥料の過不足、天候不良、環境不良などで健全成長が阻害されると、遊離アミノ酸や糖などが蓄積されやすくなります。光合成を促進してたんぱく質の合成を促すことで害虫が寄り付きにくい芝にすることができます。また、害虫忌避剤や照明を工夫するなどして、害虫が寄り付きにくい環境にすることも大切です。
◆光合成を促進する
たんぱく質の合成を活発にするには、光合成が活発であることが必須です。光合成や生理作用を促進する肥料成分を意識しながら、必要な要素をバランスよく与えます。ケイ酸を与えると光合成の効率を飛躍的に向上させる「ケイ化細胞」が増えます。カリはたんぱく質が合成される過程を促進します。
葉緑素を作る鉄や葉緑素の重要な構成成分であるマグネシウム(苦土)も欠かせません。それ以外にも間接的に関わる要素がありますので、チッソ・リン酸・カリの三大要素だけでなく、微量要素までバランス良く肥料を与えることが重要になります。できれば多種の微量要素を含んだ有機資材を活用したいところです。
また、アミノ酸や有機酸を含んだ資材の活用も有効です。植物の肥料吸収や根張りを旺盛にし、軟弱になりがちなチッソ過多を防ぐ役割があります。
管理人が愛用している資材で光合成促進に関わる資材には次のようなものがあります。
上の写真は万緑-NHTとエンザアミンですが、これらとスーパーグリーンフードの組み合わせで施肥と病虫害予防のベース作りをし、その他の資材を組み合わせて相乗効果を狙っています。
◆土壌環境を改善する
植物の健全な生育には土壌環境の改善も欠かせません。土壌の性質は「物理性」「化学性」「生物性」で表しますが、それぞれが植物にとって快適な環境になることが重要です。物理性は主に透水性や通気性、化学性は保肥力、生物性は土壌中の生物の多様性に関わります。
芝生では、エアレーションやスライシングなどの物理的な作業をしながら資材投入することで物理性の改善(団粒化)をします。有機資材やサッチ分解剤は化学性(保肥力)の改善につながります。微生物資材や有機資材によって直接微生物を投入したり微生物を多様化することで生物性の改善につながります。(写真はエアレーションをしている様子)
◆害虫のすみかを減らす
シバツトガのようにサッチ層にツト(すみか)を作って生息する害虫もいますので、サッチをできるだけ減らしておくことも害虫対策になります。サッチングや万緑-NHTなどのサッチ分解剤を使用することでサッチを減らすことができます。
◆害虫忌避剤を使う
忌避剤を使用して害虫が寄り付きにくくすることも害虫対策になります。管理人は漢方資材のアルムグリーンやアルム凛を主に使用しています。アルムは根張り向上や有機酸やアミノ酸による植物活性化、キノコ対策でも活躍します。トウガラシエキスやニンニクエキスなども害虫忌避剤として活用されています。
◆庭園灯をLEDに交換する
害虫は夜行性の種も多く、走行性(光に集まる性質)があります。光っているものなら何でもいいわけではなく、紫外線を好むようです。電撃殺虫器の電灯が青色をしているのはそのためです。LEDの電球は紫外線をほとんど出さないため、庭園灯をLEDに交換しておくことで害虫が集まりにくい環境にすることができます。最近は密閉器具対応のLED電球もありますので、害虫対策の一つとして検討してみる価値はあると思います。
管理人宅では、2009年に殺虫剤を使用したのを最後に、それ以降は姫高麗芝の害虫に関しては無農薬で維持しています。西洋芝は夏越しで被害が出そうな場合のみ使用しています。ある程度は害虫の食害が発生していると思いますが、許容範囲に収まっていると認識しています。